母親も父親も「赤ちゃんをなくした親」であり、それぞれに周囲の温かなサポートを必要としています。にも関わらず、医療者や周囲の家族から父親へは、「奥さんをサポートしてあげてね」「あなたがしっかり支えるんだよ」と声をかけられ、妻のサポート役を期待されてしまうことが少なからずあります。
上記のような声掛けがなくとも、自分自身で「自分よりも妻の方がつらいはずだから、自分がしっかり支えなくては」と考え、直後から死産届等の現実的な対応をこなし、妻や周囲の人に心配をかけないようにと、自分の悲しみ等苦しい感情には蓋をしてやり過ごしている方が多いかもしれません。
大切な人との死別という出来事は、様々な人間関係にも大きな影響を及ぼします。赤ちゃん・子どもをなくした場合は、死別後しばらくの間、夫婦間のコミュニケーションに困難を感じる方が少なくありません。
グリーフ(死別によって生じる心や体、行動の様々な反応)の表出の仕方や向き合い方には性差の影響もあると考えられています。父親は、死別直後から社会的な役割をこなすために、悲しみを抑圧してやり過ごすという対処をとっていることが多く、妻から見ると「夫はもう立ち直ったように見える、悲しくないのだろうか?」と食い違いを感じたり、「私の気持ち、つらさを分かってもらえない」と不満を感じたり、夫婦関係に影響する場合があります。
こういった「赤ちゃんをなくした夫婦の間で生じやすい葛藤のパターン」を理解し、葛藤を解消するためのコミュニケーションの工夫(それぞれのグリーフを互いに尊重し否定しない、自分の気持ちを素直に伝える、言わなくても察してほしいという期待は手放し、相手にしてほしいことは具体的にお願いする等)を心がけることは、死別後の夫婦関係を維持していく上でとても大切な視点です。
赤ちゃんをなくした母親の声を聞いていると、母親はパートナーや周囲の身近な人に対して、下記を望んでいることが多いようです。
多くの日本人男性は、「男は強くなければ」「男は泣くもんじゃない」「男は弱音を吐いてはいけない」「大人の男性は、困難があっても安易に周りを頼らず、自分で解決、乗り越えるべきだ」等の教育を受けて育ってきており、悲しみなどの感情を周囲に見せる、涙を見せることに慣れていません。
ただ、多くの女性は、パートナーと「悲しみを分かち合いたい、私の悲しみを理解してほしい」と願っています。
自分の悲しみを押し殺して過ごしている時に、妻の悲しみを受け止めることはとても難しいことです。妻の悲しみを共感をもって聴こうとすると、自分自身の感情も湧き上がり、涙が堪えられなくなるでしょうから。
子どもの死を悲しみ、泣くことは親として当たり前の感情であり、男性も泣いてもよいのだということを知っておいてください。自分が泣いたらパートナーに心配をかけるのでは、と不安を感じているのであれば、「あなたに心配をかけたくなくて、泣くところを見せないように努力していたけれども、赤ちゃんをなくして自分もとても悲しいんだ、こういう気持ちをあなたと共有したいのだけれど、話してあなたがつらくならないだろうか?」と素直に伝えてみるのも良いかもしれません。赤ちゃんを大切に想っていること、妻を気にかけていることを伝えることは、女性からするととても嬉しく、安心することだと思います。
夫婦であっても赤ちゃんの死の受け止め方、対処の仕方はそれぞれ違いがあることを知った上で、その違いを認めつつ、自分の感情や考えを丁寧に伝えること、そして相手の感情や考えも丁寧に聴き、受け止めることが大切です。このような互いのグリーフを尊重するコミュニケーションを続けることは、「なくなった赤ちゃんを家族の一員として迎え、家族としての絆を持ち続けること」につながり、両親にとって、苦しい時期をくぐり抜ける大きな支えになっていくと思います。
A Father’s Grief (The Compassionate Friends)
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